螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

小説書きでミニチュアゲーマーが何の生産性もない無益なことばかり延々とくっちゃべってるブログ

驟雨


「あいつら私にやおい穴がないことを何度言えば理解するんだ!!」
左「いきなりすごいカミングアウトきましたねー!」
上「いやぁニ千越えのオッサンが「んほぉぉぉっ! しゅごいぃぃぃぃっ!」とか言うのもかなりどうかと思うからね! 必死こいて逃げてきたよ!」
左「いやいやそういう需要ありますからねー。大丈夫大丈夫、いけますよー!」
上「うわーい腐ってた! 腐ってたよこの子! 目キラキラしてるよ! お父さん心配です!」
左「とりあえず『チェーン兄貴分隊全員×ヴァトハール』がウチの女性陣の間ではトレンドですねー。『エリテマトーデスくん×ヴァトハール』も根強いですけどー」
上「やめてその字面を見ただけで死にたくなるカップリング! なんでどっちも私が後ろなの!? 前もヤだけど!!」
左「まぁでも鉄板はやっぱり『胸板……あ」
上「…………」
左「…………」
上「……胸板兄貴……帰ってこないね……」
左「うん……」



 帰って、こなかった。
 今回の現実宇宙襲撃は、まぁ戦闘自体はいつものようにボロ負けだったが、どうにかギリギリペイントークンを二個ゲットしたので一応成功と言えなくもなくもない感じであった。
 が、戦闘の混乱によって陰謀団〈網膜の恍惚〉は散り散りになり、なんか現地解散ということになって各自航行手段を見つけて自力でコモラフまで帰ってね(はぁと)みたいな無茶振りをされたカバライトたちは聞くも涙語るも涙の艱難辛苦に満ち満ちた冒険行ののちお土産いっぱい買いまくったあげく健康的に焼けた小麦肌状態で時差ボケに苦しみつつまぁなんかどうにかだいたいみんな集まったかなーおいこのご当地キーホルダーどうすんだよ使いもしないもん買うなバカ、みたいな話をしていたら胸板兄貴分隊だけ帰ってこなかったのだ。
 どうしよう。



 ――胸板兄貴が異様な夢より目覚めたとき、彼は己の体が芋虫と化していることを発見した。
「……あー……?」
 まぁ、さすがにそのものではないのだが。
「……え?」
 手足がない。
 ワンモアセッ
 手足が☆ない。
 頭と胴体しかねえ。
 そんな状態で、革のベルトが体にぐるぐる巻きつけられ、天井から吊り下げられていた。
 まるでミノムシだ。
「はは……これ……ははは……」
 唯一自力で動かせる首をフル稼働させて、必死に自分の体を見下ろしてみるが、ケイオスバイカーのチェーンアックスによる傷が治療された跡だけが残っていた。
 何度確認してもないものはなかった。
 手足は、なかった。
「なんなんだこりゃあああああああああ!!!!」
「うう……兄貴……」
 声がした。見ると、自分と同じように天井から吊るされている奴がいた。
 舎弟のひとりだ。
「おい、こりゃあ、一体なにがどうなってんだ……!?」
「わ、わかりやせん……目が覚めたらこんな有様でして……」
「あ、兄貴!」
「兄貴ぃ……!」
 同じように吊るされていた舎弟たちが、胸板兄貴にすがるような視線を向けてくる。
 その数、九。胸板兄貴分隊の全員が、四肢を切断され、ここに吊り下げられているのだ。
 いたるところに血飛沫の跡が染み付いた、SAN値の削られそうな部屋であった。
「おやおや、お目覚めですかクソカス×10」
 そこへ、神経質な声。
 扉が自動で開き、貧相な体格のハゲが入ってきた。
 ザメンホフだ。
「テメェ……ザメンホフ! なんだこりゃ! どういうつもりだ!」
「なんとも可愛らしい姿ですねぇ、胸板兄貴。あなたが乳飲み子であった頃を思い出します。まるでつい昨日のことのようですねぇ」
 目を細めて、こちらを眺める。それは人を見る眼ではなかった。家畜の品定めを行う眼だ。
「俺たちを、どうするつもりだ」
 胸板兄貴は、即座に覚悟を固めていた。この状況、どう転んでも愉快な結末にだけはならないだろう。
「なんかの実験に使う気か? 俺たちの肉を材料に変な新兵器でも作るつもりか?」
「別に? どうもしませんよ?」
「……は?」
 ザメンホフは枯れ枝のような指でこめかみをかいた。
「根本から勘違いをなさっているようですが、『これから何かをする』のではありません。『いままで何かしていたのを元に戻した』のです」
「はぁぁ?」
「おぉ――六百年前のあの日のことは、今でも鮮明に思い出せます。ヴァトハールが抱えてきた、四肢を持たぬ奇形の赤子。泣き声を上げる力もなく、ぐったりと目を閉ざしていましたねぇ……」
 ぞわり、と戦慄が体を駆け抜けた。
「てめ、そりゃ、まさか……」
「ヴァトハールは言いました。この子は私の希望だ。なんとか助けられないか……と」
 尾骶骨をのたうたせ、からかうように胸板兄貴の周囲を回り始める。
「私は快諾しました。おぉ、なんと哀れな赤子であろうか。かかる無力な者に希望を与えるが医師たる者の責務……」
 二対の腕を広げながら、芝居がかった動作でザメンホフは詠嘆する。
「ゆに私は、その赤子に四肢と両目を与えました。ちゃんと歩けるように。ちゃんと見えるように。下等種族どもの肉をこねて作り上げた、義手義足義眼……ダークエルダー本来のしなやかな筋肉とはかけ離れた、粗雑で愚鈍なる模造品をねぇ……」
 胸板兄貴の顔面に、ザメンホフの冷たい指が触れる。まるで蜘蛛のように這い回る。
「しかしもちろん、タダではありません。私にもそれなりの見返りがあるよう、四肢の間接部に細工を施しました。かねてより片手間に進めていた、とあるお遊び……その成果を試験してみようと思ったのです。文句はありませんよねぇ? あなたは私のおかげで五体を手に入れたんですからねぇ?」
 やがて両手が胸板兄貴の顔を捕らえ、動かないようにがっちりと固定した。
「動作の、記憶。肉体の動かし方のノウハウ。どのように筋肉を使えばどうなるか、その因果関係のデータ。あなたの間接を形成する有機シリンダー内部には、ネクロン由来のリヴィングメタルが充填されています。かの超物質は記憶しています。あなたの戦闘技能のすべてを。これらの記憶を複製し、そのへんの雑魚どもの間接部に有機シリンダーとともに埋め込めば……クク、どうなると思いますか? ビジネスの予感がしませんか?」
 誰でも改造手術を受けるだけで簡単にサイバライト級の戦闘技能を得られる。そういう発明のようだ。
 とすれば……貧民街で燻っている連中などはザメンホフのもとへ殺到するだろう。
「うぐぐ……」
「おぉ、幸福な夢は醒めました。あなたは現実に立ち返らなければなりません。四肢はなく、その眼窩に眼も備わっていない、醜悪で哀れで豚よりも無力な生物としての現実にねぇ」
 一対の腕で胸板兄貴の頭を固定し、もう一対の指先が眼に近づいてきた。
 ゆっくりと、ゆっくりと。
「う……あ……」
 顔を背けようとするが、押さえ込まれて動かない。
「さてさてさて、その眼球もまた興味深いデータが蓄積されています。私があなたに貸し与えたものです。当然返してくれますよねぇ?



 絶叫が、轟き渡った。
 真なる暗闇の中で、胸板兄貴は意識を失った。
 長いこと、長いこと、目を覚まさなかった。







「…………」
「…………」
 一か月が経った。
 胸板兄貴は帰ってこなかった。
 三馬鹿やメンナク兄貴を中心に、陰謀団総出で捜し回っているが、その行方はようとして知れない。
「……静かだね……」
「うん……」
「…………」
「……もっかい、さがしてきますー……」
「うん……」



 ツッコミ役不在で、みんなどことなく消沈した様子のまま、二年の月日が流れた。
 ザメンホフくんはひっきりなしに襲撃しろと催促してくる。
 確かに、そろそろ現実宇宙でペイントークンを狩り獲ってこないとマズい時期に差し掛かっていた。
 胸板兄貴は、帰ってこなかった。