螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

小説書きでミニチュアゲーマーが何の生産性もない無益なことばかり延々とくっちゃべってるブログ

エピローグ 下

f:id:beal:20180425224311j:plain

 かくて聖杯戦争は第四次をもって永遠に終結を迎えた。とある少年は聖杯の泥によって両親を喪うこともなく、衛宮士郎なる名を得ることもなく、ごくごく普通の少年としてメサイアコンプレックスを患いもせずに平穏な生涯を送ることだろう。

 久宇舞弥は、自らの制御装置たる衛宮切嗣を裏切り、謀殺した罪を背負った。ホクロの呪いはディルムッドがこの世を去ると同時に解かれたが、愛に生きた記憶までもがなくなったわけではない。衛宮切嗣という殺戮機械の部品としてではなく、女として生きることを実感として学んだ彼女は、もはや名実ともに一人の人間となった。ひとまずは、自らの子供を探す旅に出ることだろう。

 間桐雁夜はその後、璃正氏の厚意で教会に身を置くことになった。余命一ヶ月と思われた体だったが、意外にも半年程は持った。穏やかな暮らしの中で、徐々に笑顔を取り戻してゆく桜を見ながら、ひとまず救うべきものは救えたと、眠るように息を引き取った。その最期は璃正氏と、桜と、たまたま遊びに来ていた凛が看取ることになった。

 遠坂時臣は聖杯プランが絶たれた後も即座に気持ちを切り替え、別のアプローチで根源に至る方法を模索し続けた。聖杯戦争の前と後でほとんど何も変化しなかった人物だが、唯一不可解なことに、暇を見つけては間桐雁夜に憎まれ口を叩きに教会へと顔を出しつづけた。方針の違いはどうあれ愛娘のために命を擲った男に対し、複雑なものを感じていたのだろう。

 ――そして。

 ウェイバーの耳を引っ張りながら帰国の途につくケイネス先生は、飛行機に乗る直前に極東の島国を振り返り、「まったく、本当に、ロクでもない経験だった」とかぶりを振った。壮絶を極めた戦いの、それが彼の総括だった。

 あの聖杯戦争を終わらせた男として、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの威名は魔術師の間で轟き渡った。彼の魔術回路は聖杯の泥と一瞬接続したせいで何割かが死滅していたが、まぁ刻印と違って回路は後天的に培うものなので、しばらくはひたむきに修行のし直しということになった。あのロード・エルメロイが泥臭い努力をしている、と好奇の目で見られたが、本人はどこ吹く風であった。

 その過程で、ウェイバーの論文を仔細に読み込むようになる。そして理論上の矛盾点や細かな荒をことごとくあげつらっては少年魔術師をこてんぱんに言い負かし、「お話にならない。やり直し」と突き返す日々が続いた。そのせいで両者の理論的素養は無暗に高まることになったが、二人ともそれを好ましい変化とは見なさなかった。

 変化はもう一つあった。予定通り結婚したソラウとの関係である。彼女の願いを盲目的に叶えるばかりであった夫婦仲が変わった。ソラウのわがままをすべて聞く点は変わらなかったが、同時にケイネス先生からもしてほしいことややめて欲しいことをきっぱりと言うようになった。その一方で「君にとって私は政略結婚の相手に過ぎないだろうが、私にとって君はこの世でただ一人の女なのだよ」とかなんとか歯の浮くようなセリフを真顔で言うので、ソラウは大いに目を白黒させるようになった。彼の従僕がこの世を去る直前に「与えるだけで求めなかった」ことに後悔を芽生えさせていたことが明らかに関係していたが、本人は決して認めようとはしなかった。まぁなんか、それなりに円満な家庭を築き上げるんじゃねえかなこれ。

 最後の令呪が効果を上げたのか否か、もはや確かめようのないことであった。

 そしてこの妄想をとうとう書き上げた俺から言える結論はただひとつ。

 聖杯戦争は令呪ゲー。

 

 

(ケイネス先生の聖杯戦争 完)