螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

小説書きでミニチュアゲーマーが何の生産性もない無益なことばかり延々とくっちゃべってるブログ

狂ほしく 血のごとき 月はのぼれり

「武士道とは死狂うことと見つけたり」
シグルイ山口貴由
すこし狂っていたり、ほどほど狂っていたり、かなり狂っていたりする剣客たちが死の閃光を交わす漫画。登場する異形の剣術の数々に大変燃える。とりあえず三巻までは特に真新しくもない、散漫といってもいい作品なのだが、四巻からテーマが明確になり、ぐっと求心力が増す。とにかく筋肉とエロとグロが混沌と煮崩されたような画風で、一種異様な迫力があり、それらは戦闘シーンでおぞましい何かを結実させる。漫画やアニメのチャンバラシーンでは、よく無数の斬撃がガガガッとぶつかり合う描写があるが、もちろん現実ではそんなことはなく、勝負は一撃か二撃で決まるものだ。そうした〝一撃必殺系バトル〟の極北に位置するのが、この作品ではないだろうか。正気を喪うような――それ自体を目的とした――凄まじい鍛錬を重ねに重ね、野心と妄念を燃やすことによって捻り出される恐怖の一閃は、いままで見たこともないような極限の重みをもって、眼の前の敵手のみならず読者の甘えたチャンバラ観をも斬殺する。刹那の時間は無限に引き伸ばされ、剣士たちは斬間という名の異空間で己の魂を相手に刻み付ける。ひとつひとつの挙動が流れるように描写され、停滞した時の中で読者は一瞬の間に交わされた無数の攻防や駆け引きを幻視できる。特に説明がなくとも、超絶の技の術理を感得できる。あるいは、あえてコマ落ちのような描き方をすることによって技の根幹を不明瞭にし、得体の知れなさを演出している。それら円熟の域に達した戦闘表現の数々に、私は言い知れぬ興奮を覚えるのだ。痺れるような酩酊を覚えるのだ。ぶっちゃけ燃えるのだ。特に、物語全体においても重要な役割を持つ魔技「逆流れ」の凄まじさと不気味さには、恐怖すら抱いた。何度読み返しても、何がどうなっているのかわからないのだ。一体この使い手はどんなトリックを用いたのか。どんな修練を積めばこんな現象が起こりうるのか。これからも眼が離せないッ。