螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

小説書きでミニチュアゲーマーが何の生産性もない無益なことばかり延々とくっちゃべってるブログ

なんて読むんですか?

 『隠し剣孤影抄』とか読んだんですが。
 剣客小説の短編集で、技名がそれぞれのタイトルになっています。
 暗殺剣虎ノ眼とか宿命剣鬼走りとか、我々ボンクラにとっては非常に心躍る字面で、ウヒョー!とばかりに読み出したんですが――しかし――
 ――ひとつ例を挙げてみましょう。
 『邪剣竜尾返し』。
 もうこんな技名を見ただけで脳内にはめくるめく「常勝の殺戮技・竜尾返しをめぐる幾多の剣鬼たちの妄執と怨嗟を描いた異形時代活劇」的な妄想世界が展開され、思わずヨダレが垂れそうになったりするわけですよ。
 で、劇中で最初に竜尾返しが繰り出されるシーン。

 しばらく睨み合ったあと、浪人者が仕かけようとしたように見えた。そのとき弥一右エ門が竹刀を引いてくるりと背を向けた。その背に向かって、浪人者が怒号を浴びせながら竹刀を叩きつけた、と思ったとき、道場の床をとどろかせて浪人の巨体が横転していた。弥一右エ門が、どういう竹刀を遣ったのかわからなかったが、昏倒している浪人者を介抱すると、こめかみが拳ほども腫れていた。

 こんな記述を見たらそりゃあもう竜尾返しが一体どういう技なのか期待しちゃいますよねぇ!?
 でも……
 でもね……
 一応ネタバレになるので書きませんが、その術理が明かされたときの感想。


「えっ、それだけ……?」


 ……いや、わかってはいるんです。この本は、ラノベばっかり読み散らかして小道具と設定と薀蓄と戦闘に昏倒するボンクラのために書かれた話ではない、ということを。
 もっと、こう、しみじみとした人情というか下層階級の哀愁というか、そんなようなものを出すのがテーマの作品なのでしょう。
 でも……
 でもなぁ……
 あんだけ期待させといてそりゃねえよ……って、思うんですよ。
 喩えるならば店頭に並んでいる食品サンプル。完璧だが「食べられません」。
 ……さりげなくパクったところで、(あまつさえこいつぁなかなか巧い使い方じゃねえか俺!とか自画自賛してるところで)もちろん良い面もあったということを言っておきたいわけなんですよ。
 これは要するに俺には合わない話だったというだけで、決して駄作だったという意味ではなく――
 一番気に入ったのはアレですね、『宿命剣鬼走り』。
 さまざまな確執にまみれた時の果て、今際のきわに、生涯の宿敵と相対する老剣士! 鬱々とした展開の前半を吹き飛ばすかのような勢いのクライマックスに、俺・大興奮。剣撃描写も一番熱い!