返ってください。
前回までのあらすじ:うっかり小説執筆を重点していたらなんかすごい間隔が開いた。悪いことをしたとは思っていない。被害者の分まで精一杯生きようと思う。
まぁなんかそういうわけでカダグロさん家(ち)では胸板兄貴分隊の帰還をみんなで祝っていた。
「おかえり! 胸板兄貴!」「ギョロ〜!」「……っ♪」
「おかえりー!」「「おかえりなさーい!」」
「なぁ……ホモしようや……」(CV:玄田哲章)
「「「おかえりッス!!」」」
「間近で見ると凛冽な覇気を感じる……これが天才……」
「あァ? てめえどこカバよ?」
「なぁ……ホモしようや……」(CV:玄田哲章)
「迎えろって囁くのさ……俺たちの伊達って止まらないワル魂が……」
「し〜ねう〜んこ〜!」
「なぁ……ホモしようや……」(CV:玄田哲章)
――そして。
胸板兄貴たちは、その男と対峙した。
くひゅひゅ、とほくそ笑みながら、ザメンホフは歩み寄ってくる。
「おやおや、ずいぶん探しましたよダ……いえ胸板兄貴。心配のあまり食事も喉を通らず、この通り身の細る思いでした。いやぁ、ご無事で何よりです」
胸板兄貴と舎弟たちは、黙ってザメンホフを眺めている。
大気が密度を増した。
――まだだ。
舎弟たちと頷き合い、胸板兄貴は胸中でひとりごちる。
――〈網膜の恍惚〉には、まだこいつが必要だ。
「しばらく見ないうちにずいぶんと立派になられましたねぇダル……いえ胸板兄貴。金縁の甲冑ですか? いやぁ、かっこいいですねぇ」
ザメンホフを、睨みつける。
気に入らない……というより気に入る要素が何一つない男ではあるが――
かつて自分たちにした仕打ちを考えれば、今すぐ斬りかかる衝動を抑えるのに苦労するが――
しかし胸板兄貴は、太い笑みを浮かべた。
「回が+1されたんですか? 強いですねぇダルマ……いえ胸板兄貴」
「あぁ、世話になったな。アンタのおかげでえらく強くなっちまったぜ。マジ感謝の言葉もないわー。アンタは口ではなんやかんや言いつつ陰謀団(おれら)のことをちゃんと考えてたんだなー。ザメンホフマジツンデレ」
ビキ、と音を立てて、ハゲのこめかみに血管が浮かんだ。
そこへヴァトハールは割り込んでくる。
「えーなになに? ザメンホフくんツンデレ指数高いコトしたの? あー、やっぱりねー、私は昔っから君はツンデレだと思ってたんだよねー。まぁ出会ってからかれこれ千六百年以上ツン期が続いてるんだけどねーへぶぅっ!!」
尾骶骨でヴァトハールを殴り飛ばし、ザメンホフは枯れ枝のような指を絡ませて複雑な印を結んだ。
「――戒律を、起動せよ」
力ある言葉。
瞬間、
「ぐっ!?」
「な、なんだ……!?」
胸板兄貴の舎弟たちが急にもがき始める。手足が病的に痙攣し、もはやまともに立っていることもできない。
その手が腰に吊っていた銃器に伸びる――かに思えたが、拳が握りしめられ、すぐに離れた。
「体が、勝手に……!」
「おやおや抵抗しますか。相当に肉体操作の修業を積んだようで。しかしながら動きを止めるには十分なようですねぇ」
自明の理だった。
ヴァラゴとの過酷な荒行の果てに螺観法を体得し、自前の手足を獲得した胸板兄貴とは異なり、舎弟たちはいまだにザメンホフ謹製の義手義足をつけている。この貧相なハゲの意志ひとつで、いつでも体を操られうるのだ。
「てめえ……」
だが――それでも舎弟たちはザメンホフの命令に抵抗した。彼らとてヴァラゴの薫陶はうけているのだ。もはや運命に翻弄されるだけの奴隷ではない。
タイマンの、形になる。
――冷徹に見た場合。
ドラッコンたる胸板兄貴(アゴナイザー装備)と、ハモンキュラスたるザメンホフ(フレッシュガントレット装備)。一騎打ちを行ってどちらが勝つかは微妙なところだ。
一触即発。
空気が凝固する。
とはいえ――
ふっと力を抜く。
「やれやれ、だらしのねえ奴らだな。長旅で疲れてるみてーだ」
「ふん、そのようですねぇ。私も安心したら気が抜けてしまいました。先に休みます」
くるりと背を向け、去ってゆくザメンホフ。
途端に、舎弟たちの肉体の負荷が消える。
「おい」
胸板兄貴は、ふと声をかけた。
動きを止めるハゲ。
「これからもよろしくなぁ、ザメンホフくん?」
ビキビキ、とツルピカ後頭部に血管が浮かび上がる。
「こちらこそよろしくお願いしますねぇ、胸板あ……いえダルマ野郎」
――今はまだ。
盟約団〈すべての網膜の終り〉とのコネを絶つわけにはいかない。
今は、まだ。
「ま、ともかく、だ」
胸板兄貴は息をついて体の緊張を解くと、ポカンとアホ面さらしている陰謀団の面々に向き直った。
「ただいま……お前ら」
「おかえり!」
――つづく!!!!