ケイネス先生の聖杯戦争第三十四局面
ゆらめく陽炎を見ているかのようだった。動き自体が速くなっているわけではない。むしろゆったりとした印象すら受ける。にもかかわらず、原初宝具が一発たりとも当たらない。何だ!? 何が起こっている!? だいたい、さっきまでは普通に無様に宝具から逃げ回っていたではないか。それが何故、今、唐突にパワーアップを遂げるというのか――とまで考えて、アーチャーは思い当たる。令呪か!! マスターによる令呪支援。それ以外考えられぬ。では近くに奴のマスターがいるのか? あるいは使い魔でこの戦況を見ているのか? ギルは探知宝具を取り出し、周囲一帯の走査を行った。結果は「なし」。魔力を放ついかなる生命も付近には存在しない。使い魔すら、いない!! 混乱に襲われるギル。なんだこれは。なんなんだ。しかも奴はぬるりと弾幕を交わしながら、少しずつ少しずつ間合いを詰めてくる。その眼に赫々たる戦意を漲らせて。このままでは遠からず白兵戦の間合いに入る。そうなると、今のような野放図な連射はできない。自分の体に当てぬように手加減をする必要が出るからだ。
時間切れ
(ではどうするか。エヌマエリシュを封じられ、不可解極まりない強化を遂げた槍兵相手に、ギルはどうするのか。ことここに至ってもアーチャーが依然として有利であった。いともたやすくディルムッドを詰ませる方策があるのだ)