螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

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ケイネス先生の聖杯戦争第五十七局面

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 それに接触した瞬間、ディルムッドは絶望した。暗黒の粘液は、ただひたすらに「死ね」と告げていた。憎しみと狂気が足元から這い上がり、魂魄を侵していった。なんだこれは。俺はこんなものに耐えるつもりでいたのか? 正気を保ったまま、大聖杯まで至れると? 本気で? 何故まだ肉体が溶けていないのか不思議なほどであった。なぜ、この脚はまだ前に進もうとしているのか? 無駄なあがきを続けているのか? なぜ? なぜ? 本気でわからない。俺は何をしている? 俺は何だ? ここはどこだ? なぜ立ち止まり、狂気と憎悪に身を任せてはいけないんだ? 俺が何をした? なぜこんな仕打ちを受けなければならない? ただ■■として生きたかっただけだったのに。ただそれだけで良かったのに。あの女が何もかも台無しにしやがった。ふざけるなよ聖約(ゲッシュ)で縛りやがって。俺がそんなことを望んでいるとでも思っていたのか。俺の主だった老人は嫉妬に狂って俺を見捨てやがった。思わせぶりに三度も助けるそぶりなどしやがって。俺が死んでいくところを眺めるのがそんなに愉しかったのか? あぁ厭わしい。あぁ呪わしい。お前ら二人が輝かしかったはずの俺の人生を滅茶苦茶にしやがった。クソが。死ね。死んじまえよ。なんで俺はお前らなんかに出会っちまったんだ。クソ。クソクソクソが。憎い。憎い憎い憎い憎い死ね死ね死ね死ね死ねよ俺の前で苦し身悶え後悔しながら血反吐吐き散らして死ねよ俺は笑いながら死に顔に小便ひっかけてやるよあぁ気分がいいなァなんで今までこうしなかったんだろうなァ俺はずっとこの二人に復讐することだけ考えていたのになァ不思議だなァなんでだっけなァなんかあったよなァそうしなかった理由たとえばそれはたとえばたとえば――

 フィン・マックールは、俺が魔猪に挑む際、言葉を尽くしてやめるよう説得してきた。それでも俺が向かうと言うと、彼は泣き笑いのような顔になり、立ちすくんだ。嫉妬の心は確かにあった。それが彼を笑わせた。このままディルムッドを行かせれば、確実に死ぬということがわかっていたから。

 

 

 だが、彼は、同時に泣いていたのだ――

 

 

 全身が大きく震え、ディルムッドは目を開いた。胃の腑を満たすたとえようもない悪臭と異物感に体をのたうたせ、嘔吐した。黒き泥が後から後から出てきて喉を焼いた。濁った絶叫を上げながら、全身を包み込む粘液を振り払い、前のめりに倒れ込んだ。そこも泥で満たされていた。隣では、ランスロットが同じように泥の狂気を脱し、アロンダイトを杖にしてぜえぜえと立ち上がろうとしていた。令呪の加護と、騎士の魂が、ギリギリのところで二騎の黒化を防いだのだ。だが――こんな僥倖はいつまでも続かない。泥の汚染力はディルムッドの想像をはるかに超えていた。急がねばならない。おぼつかない足取りで前に進む。目の前には、宝具化爆薬によってぽっかりと開いた穴。そして――その奥に。

 黝い光を称えた、壮大にして醜悪、精緻にして混沌たる魔方陣が広がっていた。冬の聖女ユスティーツァの魔術回路を鋳型に構築された、魔術式。大聖杯。そして、その前に、泥がわだかまり、形を成し、五つの人影を形作った――