構えろ――そして死ね
と、そこで俺氏、重大な事実について失念していたことに気付く。『ソリッドファイター』である。ゲーム小説について述べているのに、この作品に言及しないのは片手落ちもいいところである。『ソリッドファイター』とは天才作家古橋秀之が放った格闘ゲーム小説である。また古橋か! どれだけ古橋が好きなのだこの男は、と呆れられそうだが、俺が読んだ中ではゲーム小説の頂点といったらこれなのだから仕方ない。さて、本作は主人公がゲームを手段に貶めていない。「〇〇のためにゲームする」のではなく、「楽しみ、勝つためにゲームする」なのである。これは最後になるまで変わらぬ行動指針であった。そして、とある単一の格闘ゲームをフォーカスして、それをプレイするさまざまな人物の、ゲームに対する姿勢なり生き方なりが描かれている。とか言うと、ゲームは調味料程度の扱いで、メインは人間ドラマなのかと思われがちだが、さにあらず。古橋先生がそんなヌルいことなどするはずがない。極めて独創的かつリアルなゲームシーンが詳細かつ魅力的に描かれる。で、まぁ、要するに、この作品が胸の根底にあるから、『スタートボタンを押してください』には不満を抱くことになったのである。
時間切れ。
(『ソリッドファイター』の要素として、「本当にすごいものは大衆に受け入れられない」という、ある意味古橋秀之という男の生き様を象徴するかのようなテーマが込められている。その事実に対する苦しみと悲しみから生まれた存在がラスボスであり、最終決戦は神話的で感動的だ)