表紙買い
「ヘンなものへの好奇心を如何なく刺激」
(老ヴォールの惑星/小川一水)
SF短編集。
「ギャルナフカの迷宮」疑心暗鬼と暴力が支配する広大な迷宮に落とされた主人公が、そこでまっとうな社会を構築するために奮闘する話。まずタイトルが逸品だと思う。一体どんな迷宮なのか、なぜか非常に興味をかきたてられた。内容は、絶望的な前半と、とんとん拍子にことが進む後半の醸し出すカタルシスが素晴らしい。抑圧と解放。基本に忠実。しかし願わくば最後に最大の危機が訪れたりしてほしかった。あっさり終わり。
「老ヴォールの惑星」特異な生態を持つ珪素知性体たちの生きざまを描く。やっぱりタイトルが良い。……って、俺は片仮名固有名詞のタイトルに弱いのか。年長の大きな個体が若い小さな個体を喰ってさらに成長するというシビアな社会なんだけど、さまざまな理由から全然危機感も悲壮感もなく、のほほ〜んとしているのがちょっとおかしい。年代による捕食関係の垣根を越えて、種族全体で大きなことを成し遂げるラストはなかなか感動。
「幸せになる箱庭」人類が高度な知性体とファーストコンタクトな話。風光明媚で好奇心をかきたてられる異世界はお気に入り。何言ってもネタバレになりそうなんだけど、とりあえずこんな〝箱庭〟ならずっと〝居て〟も俺は不満には思わないなぁ。いわゆるマトリックスの安息というやつだ(いわゆるも何もそんな言葉はない)。ネタとしてはけっこうベタ。この種の〝箱庭〟に対するもっと斬新な見解を読みたかった、かもしれない。
「漂った男」全面をゲル状の海に覆い尽くされた惑星に不時着した男の話。まったく変化しない状況下で何年も延々と交信会話をつづけるだけの話なんだけど、なぜかあまり退屈はしなかった。しかし主人公にとっての退屈は耐え難く、頭がおかしくなったりするのだが、どうにもその様子がユーモラスで恐怖感もへったくれもなく、お前実は狂ってる自分を演じて楽しんでるだろと突っ込みたくなったり。話全体にもう少し起伏があればなぁ。