第二次維沙育成方針会議
魔剣の話をしよう。 魔剣とは、理論的に構築され、論理的に行使されなければならない。 ――悟れず狼狽え死を厭う。かくも有情は愛おしく。 さてさて、まずは左脚に体重をかけつつ重心を下げ、刀を鞘走らせることとしよう。ここから地を擦り上げるように刃を閃…
螺導・ソーンドリスは、いわゆる直観というものをあまり信用していない。 それは要するに自分が感じているものごとを正確に理解していないが故の妥協的表現だからだ。 意識に上ってこない微細な感覚の集合を、理解できないがゆえに「直観」と名付けて思考停…
壁が来る。押し寄せる。 そしてちっぽけな人間の肉体に培われた、あらゆる意味での「強さ」を吹き飛ばしてゆく。 すべてのモンスターの中でも、世界の理に関わる超高純度のエネルギー体「純血晶」をその身に宿す血統種。 彼らが身に纏う、強制のオーラ。自ら…
――地下死街。 かつてエスカリオが浮上せず、地上世界の一地方であった時代の遺構群である。 だが、そこは大量の白骨化した死骸が折り重なり、急速に生命を蝕んでゆく毒素が充満する、まさに地獄と呼ぶべき場所と化していた。 かつてここで何があったのか? …
極夜のエスカリオに朝は訪れないが、それでも人は時間を測って一定周期での生活を営んでいる。 午前七時。巨大で黒々とした石造りの異邦人ギルドで、出立する絶無たちを他のメンバーが見送りに出ている。 ギルドの中心に位置する、大魔石の間。ぼんやりと青…
異邦人ギルドは、城塞めいた構造を持つ正六角形の建造物である。 周囲の家屋に比べて段違いに高く、そして堅牢な石造りの拠点。 この世界において異邦人がいかに重要な存在であるかを如実に物語る光景である。 ――異邦人ギルドの屋上から見る空は、圧迫感を覚…
――「徘徊する悪霊騎士」に対し、尋常なダメージレースなど挑んだところで勝ち目は一切ない。 根本的な戦闘能力が人間とは違いすぎるのだ。 絶無とて、この世界に来た瞬間に身体能力の爆発的な向上を実感し、さらにその後実戦経験を積み重ねることで超人的な…
異邦人ギルドの廊下を、絶無、篤、維沙の三人は歩いていた。 「久我よ……お前のことだから何か考えがあってのことだろうが……勝算はあるのか?」 篤が、静かな目を向けて問うてくる。そこに絶無を疑う色はない。ただ、どうやって「徘徊する悪霊騎士」を討伐す…
篤は柳眉を逆立て、立ち上がろうとしたその瞬間。 「篤……絶無……」 異邦人ギルドの柱の陰から、眼帯をつけた子供が顔をのぞかせた。 この世界に来た頃は少年めいた短髪だったが、数か月が経つにつれ伸びてきた鼠色の髪は後ろでまとめられている。 その眼には…
これまでの人生を極端な実存主義のごり押しで通してきた久我絶無にとり、自分が特殊な才能を持った人間であると聞かされたところで喜びなど微塵も沸いては来ないのであった。 ――何が「選ばれし者」だ。馬鹿馬鹿しい。 むしろ怒りが湧いてくる。「選ばれし」…