螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

小説書きでミニチュアゲーマーが何の生産性もない無益なことばかり延々とくっちゃべってるブログ

過去の文章、発掘更新その4

 湿った音をたてて、肉色の何かが動いていた。
 朽ちかけ、穴だらけとなった天井から差し込む陽光の下を通るたびに、ソレの体表が毒々しい光沢を帯びた。無数に伸びた触手が打ち振るわれ、空気が高く唸る。そのつど粘液の飛沫が散乱し、水音をたてた。
 触手の幾本かが鎌首をもたげる。ぬめる表皮を引きちぎりながら、花弁のように口を開いた。
 異様に甲高い鳴き声を上げた。二度三度。いくつもの触手が口々に鳴くそのさまは、親鳥の帰りを待つ雛の群れのようであった。食べ物を求めている。
 方々にぬるぬるとした手を伸ばすも、そこにはもう鼠一匹いなかった。
 一際高らかに悲鳴を上げ、くたりとうなだれる。
 断続的に、痙攣した。
 力なくのたうちながら、ふたたび蠢きはじめる。
 花弁状の口が裏返り、中から無数の牙が現れる。それぞれが別個の意思を持っているかのように振り回されている。牙と牙が何度もぶつかり、硬質の旋律を奏でた。
 やがてすべての牙が噛み合わされ、ギロチンの落ちるさまにも似た音色で演奏は締めくくられる。
 そして――
 異音が発生する。濡れ雑巾を引き裂く響き。
 ある触手が、別の触手に喰らいついていた。牙をつきたてられた触手は狂ったように頭を振った。
 それを皮切りに、あちこちで冒涜的な饗宴がはじまった。牙が肉を穿ち、体液が噴出し、咀嚼されるさまが、粘質の騒音に彩られながら繰り広げられた。食い千切られた肉片が床に叩きつけられ、押し花のように広がる。
 数分ほども、つづいたであろうか。
 結果は最初から決まっていた。自らを喰らって、それで餓えが満たされるはずもない。
 ソレは動かなくなっていた。
 思い出したかのようにひくりひくりと肉が収縮するほか、何の動きもしなくなっていた。
 やがて断末魔の震えも、止まった。