螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

小説書きでミニチュアゲーマーが何の生産性もない無益なことばかり延々とくっちゃべってるブログ

エピローグ 上

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 翌日。先生、おじさん、時臣の三人は、額を突き合わせて喧々諤々の議論を交わしていた。無論、桜の今後をどうするのかという話である。「やはり俺が引き取る。魔術師とは関わらせない」「馬鹿なことを言うな。今からでも後継者を欠いた魔道の家門を探す」「馬鹿なことを言っているのはお前も同じだと思うがな時臣。虚数属性などというレアすぎる資質を正しく導くノウハウを持ち、かつ後継者を欠いている家門などそう都合よく見つかるものか」「ではアーチボルト家で引き取ってはもらえまいか!」「お断りだ。アーチボルトの魔術刻印を受け継ぐのは私とソラウの子だけだ。そこまで背負込む気はない」「だから魔術師では桜を守れないと何度も言っているだろうが!」ぜんぜんまとまらない。

 一行は教会にいた。聖杯戦争終結の報告をまとめるための事務手続きとして、言峰璃正に招かれたのだ。久宇舞弥は男たちの様子を呆れたように見守っていたが、ふと目の前に茶が差し出されたことに気付く。「やあ、時間を取らせてすまないね。なにしろ異例のことばかりで手こずっている。大聖杯が破壊された、などと。魔術協会との関係に激震が走りかねない事態なのだ」一連の心労ですっかりやつれた璃正氏が、しかし哀しみを押し殺した笑顔で言う。「いえ……どうせもう、やることもありませんし」軽く会釈して茶を受け取る。璃正氏は、舞弥の隣にちょこんと座っている桜に目を移す。「その子は?」「あぁ……」舞弥は間桐桜について知っている限りのことを話した。聞くうちに、老いた神父の目尻に涙が浮き上がってきた。「時臣くんの判断は理解するが、やりきれないな……」璃正氏はその場を去っていった。

 一方三人の男たちはいっこうに結論の出ない議論にいら立ち、殺気立ち始める。「やはり貴様とは相いれないな、遠坂時臣……!」「よろしい。あと一か月も苦痛を長引かせることはあるまい」にわかに教会をサツバツ・アトモスフィアが包み込んだその瞬間。「――そこまで」三人の丁度真ん中の床に、黒鍵が突き立った。「神の家での狼藉は許されない」見ると、璃正氏が皿に山と盛られた焼き菓子片手に、険しい目で三人を見ていた。「それに、あの子にこれ以上憎悪や悪意を見せてはいけない」目を丸くして二の句が継げないでいる三人を尻目に、璃正氏は桜の前に焼き菓子を置き、よかったらお食べ、と慈愛に満ちた声をかける。神父と菓子を何度も見直し、どうして自分がこんなに親切にされているのか、その理由がまったく理解できないでいる桜に、璃正氏は再び目頭を押さえて震えていた。「いいんだよ、怖がらなくて。もう誰も君にひどいことはしないから……」やがておずおずとお菓子に手を伸ばした少女の姿に、璃正氏は自分が救われたかのような微笑みを浮かべる。

 そのさまを絶句しながら見ていた三人の男たち。自慢の息子を喪い、もはや擦り切れるように天へ召されるばかりであった魂にとって、間桐桜は新たな生きがいとなりうるのではないか? 「教会か……」ぽつりとつぶやくケイネス先生。「教会……」ありじゃねえの? と頷く雁夜おじさん。「待て待て待て待て君たち。教会だと? あれほどの稀有な素質を、磨くことなく!? 魔道から遠ざけると!?」「言峰璃正では養父に不足か?」「いや、璃正どのの人品は徳の塊と称して良いが……そういうことではなく」「諦めろ。教会の庇護下に入れば、魔術協会もおいそれと手は出せぬし、寄り付いてくる怪異どもに対処するすべも学べるだろう。これ以上は望みようがない」「いや、しかし、だが……!」葛藤する時臣を無視して、雁夜おじさんは「神父様、ひとつ、ものは相談なのですが……」勝手に話を進め始めていた。

 そういうわけで、間桐桜の進退は定まった。