先生を間違ってお母さん呼ばわりした感
叩き、込む。
己と、神統器の繋がりを強く感じる。その絆をよすがに、質量増大の権能を行使する。
深く、強く、意志と力と記憶を交感する。
その、瞬間。
流れ込んでくるものがあった。
かつての、誰かの想い。
ただの白昼夢とは明らかに異なる、整合性を持った感情と記憶のタペストリー。●
《――無力であった。》
《使命を果たせなかった。》
《屈辱であった。》
《痛ましかった。》
《誰にも顔向けできなかった。》
《自分がこれほど弱い人間であったことに、打ちのめされた。》
《自責の念よりも、これで人からどう見られるようになるか、ということを真っ先に考えてしまった。》
《そういう自分に、吐き気がした。》
《俺は、お守りすべき姫君の、自害を許した。》
《騎士として、御傍居役として、決してあってはならない失態を演じた。》
《貴族として、ひとりの大人として、とうてい耐えられぬ恥辱を得た。》
《今日まで私は、自分を誇れていた。恥じることなどなかった。》
《今日から私は、もはや決して胸を張ることはないのだろう。》
《何も、わかってやれていなかったのだ。》
《シャロン殿下。あなたにお仕えする日々は、楽しくも穏やかなものでした。》
《しかし、私は、アーブラスは、あなたの助けには、なれていなかったのですね。》
《あなたの身をお守りできていても、心はお守りできていなかったのですね。》
《殿下。》
《殿下……私の正直な気持ちを、打ち明けることをお許しください。》
《――お恨み、申し上げます。》●
「――ッ!?」
リーネは意識を取り戻した。
慣性に引かれるまま、神統器(レガリア)を叩き込み、爆撃じみた威力を開放する。「父上ッ!?」
「うぬ?」ぬるりと一撃をかいくぐっていた総十郎が、きょとんとした顔をする。
うぬーん、なんかこう、なんだろう、今まで俺の中で、アーブラス氏は豪放磊落というか、リーネの頭を乱暴に撫でながらガハガハ笑ってる風な人を創造していたのだが、なんかこう、御傍居役としての責務を果たせなかった男なわけで、そこをマジに考えると、まぁこうなるよなぁという気はしつつも、なんか女々しくていやだなぁ、とも思いつつ、でも、このミッドポイントにおいて重要なのはアーブラスの弱さの描写であり、それに対して、「あの強かった父上が……」とリーネの中になんらかの気づきが起こらねばならない。でもさー、お前、ミッドポイントって、守勢から攻勢に転ずるポイントやんけ? その機能を果たせているの? これは? 攻勢、といっても、この掌編の目的は総十郎を倒すことではない。それは不可能だし、リーネ的にもそんなことを望んでいるわけではない。目的は自らの弱さの自覚である。自覚し、それでもと前に進む決意である。それにあたって、「父の弱さを知る」のはミッドポイント足り得るのか? どうなんだ? 父上も苦しんでいた。しかし、弱さを抱えながらも帝国に一人で行った。ってなんか勇敢な行為みたいに言ってるけどこれ要するに妻子を置き去りにして蒸発してるだけだよね……
時間切れ。
(考えれば考えるほどアーブラス氏がダメな男になってゆく……おぉ、もう……)