螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

小説書きでミニチュアゲーマーが何の生産性もない無益なことばかり延々とくっちゃべってるブログ

天使きたああああああああ


「地獄のように黒く熱い愛は、時を貫き〈歪み〉を超越する……」
左「キャーキャー!」
右「…………」
「そしてお前は悟るだろう、この俺こそが全ての迷い人を救済する闇の救世主(メシア)であることを……」
左「キャーキャーキャー!!」
右「………………」(マダオども……頼むから早く戻ってきてくれ……!)






 ともかく、まるでダメなオッサンとマッドでダークなオッサンは、暗い空の下で散歩に出てきていた。
 もちろん、ギョロちゃんとエリテマトーデスくんの散歩である。

「し〜ねしねしねしねうんこ〜♪」
「ギョロ〜!」
「しねしねしねしねしねうんこ〜♪」
「ギョロロ〜!」
 なんか仲良くなってる二人。
 ザメンホフは口の端を持ち上げた。
「おやおや、ご機嫌ですねぇエリテマトーデス。お前が歌うなど何十年ぶりでしょうか」
 エリテマトーデスくんは、数々の被造物の中でも、特にお気に入りの一体であった。
 その芸術的なフォルム、機能性、忠実さ、寡黙さ、いずれにおいてもザメンホフを満足させる出来栄えである。
 何より、エリテマトーデスくんの材料となった者たちは、実にいい声で鳴いてくれた。
「ああああっ、ダメだよギョロちゃん! そそそそんな卑猥な触手なんかと馴れ馴れしくしたらアレがコレしてああなってたたた大変なことになってしまうよ!! ハァハァ! ち、ちち違う! 興奮なんかしてない!!」
 横のヴァトハールを尾骶骨の一撃で張り飛ばすと、ザメンホフは自らの顎を掴んで黙考する。
 ――まだまだ、足りません。
 ザメンホフにとり、陰謀団《網膜の恍惚》は臨床試験の場である。
 エリテマトーデスくんの体内にて進行する、ある画期的なメカニズムの。
 そもそもの問題として、ダークエルダーという種族は他者に苦痛を与えることで活力を得ている。ところが、苦痛の呻きを上げる犠牲者から放出されるエッセンスは全周囲に拡散してしまうため、実際に加害者たるダークエルダーが吸収できるエネルギー量は、全体からすればごく一部に過ぎない。
 その上、放出された苦痛のエッセンスは短時間で散り散りになり、〈歪み〉へと溶けていってしまう。つまり、その場限りのものであり、保存しておくということができないのだ。
 この難儀な特性は、ダークエルダー社会に数々の無駄を生んでいる。
 最たるものが、他種族の奴隷である。さまざまな陰謀団が現実宇宙へと襲撃をかけるのは、奴隷を拉致してネチネチと痛めつけるためであるが――すぐに殺すわけではない以上、食わせてやらねばならないのである。
 ――実に、大変な無駄です。
 コモラフに生きる奴隷どもの総数は、もはや天文学的な数字に上るが、彼らを養うためだけにダークエルダー社会は途轍もない量のコストを割いているのである。
 しかし、他者の苦痛を味わわねば生きていけぬ以上、それらは仕方のない出費である――と、ほとんどのダークエルダーは考えている。
 ザメンホフはその思考に激しく反発する。
 ――彼らは「生きる本義」というものを見失っています。ダークエルダーが虐殺や拷問を行うのは、「それが楽しいから」。ただそれだけであったはずです。断じて「生きるために仕方なく」行うようなことではなかったはずです。
 そう、いつの頃からか、苦痛を与える行為は、ダークエルダーにとって「目的」から「手段」へと堕してしまったのだ。
 快楽主義の、パラドクス。
 ――あらゆる悪徳の王たる種族が、なんと女々しい心持か。
 生きるために仕方なく、などと、他の下等種族や知性なき野獣ですら持っている下賤な行動原理である。この銀河で最も高貴なる文明民が、彼らと同レベルにまで精神文化を退行させてしまったのだとしたら――これは実にゆゆしき事態であった。
 故に、ザメンホフは生涯をかけて、あるプロジェクトを進めている。
 苦痛のエッセンスの、結晶化。
 本来、認識論的なクオリアに過ぎぬ「苦痛」そのものを、物質に固着させ、保存する技術。
 生物の眼球の水晶体を構成する水溶性蛋白質に、媒介となる毒素を注入し、特定の配列で凝固させることで、放出された苦痛のエッセンスを海綿のように吸収し、閉じ込めておく。
 眼球の中に、ノーコストで半永久的に苦痛のクオリアを保存しつづける――そういう技術革新。
 ――これはコモラフの文化と経済に革命をもたらしうる発明です。
 奴隷などという、維持にコストのかかる通貨は貴族階級の高級嗜好としてのみ残り、ほとんどの者は「生きるための拷問/虐殺」から解放され、より健全な「楽しむための拷問/虐殺」に力を注ぐことができるようになるであろう。
 そのときこそ、ダークエルダーという種族が銀河の支配者として君臨する夜明けが訪れるのだ。
 気宇壮大なる野望。
「……いいね」
 ふいに、ヴァトハールの穏やかな声がした。
「なんですか?」
「自らの幸福や野望のために、力強く歩む人は、すごくいい顔をしている。ダークエルダーは、そういう顔をするひとが多いからね。コモラフに来て良かったと思う理由のひとつだよ」
「ふん、方舟(クラフトワールド)で生を享けたあなたに、この気持ちは本質的には理解できないと思いますがねぇ」
 肩をすくめる。
 ――問題は、二つある。
 ひとつ。技術がまだまだ不完全であり、眼球に苦痛を込めるための設備が量産できないこと。
 ふたつ。盟約団《すべての網膜の終り》上層部が、ザメンホフの研究に目を付け、奪い取ろうとしていること。
 特に後者が問題である。
 ――エインシェントどもは、私の研究を独占し、下らぬ権力闘争の道具として使い潰すつもりです。
 ヴァトハールの無能ぶりにかこつけて、内部監査役として出向してきたのには、上層部の黒い思惑から身を守る意味もあったのだ。
 ――ともかく今は、一個でも多くのペイントークンを上納し、彼らのご機嫌を取らねばなりません。
 力の差はいまだ圧倒的である。加えて、《すべての網膜の終り》が保有するおぞましき実験設備の数々は、ザメンホフの研究に取り非常に重要であり、今はまだ完全に袂を分かつわけにはいかないのだ。
 そこでふと、ザメンホフはある事柄を思い出す。
 六百年ほど前、ヴァトハールとともに始めた、とある実験。
 苦痛の結晶化に比べれば、重要度において遥かに劣る、些細な試みではあったが――
 ひとまず、進捗を確かめてみることにした。
「そういえばヴァトハール。〈彼〉の経過は順調ですか?」
 振り向きながら、問いかける。
 と。

「おやおやぁ? 天使が一人増えてるぞぉ?」
「しねうんこ〜♪」
「ギョロ〜♪」
「………っ♪」
 ヴァトハールは、いつのまにか寄ってきていたメドゥサエを、舐めるようにいやらしく観察しまくっていた。
「あああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁんキャワキャワだよおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおぉぉぉ!!!! ブルーベリー味いいぃぃぃぃぃぃんひぃぃぃぃぃぃいいいぃぃぃぃぃぃ!!!! ベロベロしたいお!!!! ネロネロしたいお!!!!!! お持ち帰りするお!!!! 超お持ち帰りするお!!!!!!」
「万死!」
「ふぐぇ!!」
 尾骶骨で張り飛ばす。
 そのまま往復ビンタ。
「馬鹿ですか? 馬鹿ですか? 馬鹿ですか? 馬鹿ですか? 馬鹿ですね? 馬鹿なんでしょう?」
 繰り返すつどに一発ずつ。
「へぶっ! ぐぇっ! ごふっ! ぶぁっ!」
「何考えてるんですか? 馬鹿ですか? これ以上ペイントークンの食い扶持増やしてどうすんですか? 馬鹿ですか? 私が言ったこと聞いてましたか? 馬鹿ですか? 《すべての網膜の終り》に潰されたいんですか? 馬鹿ですか?」
「ふぐぅっ! こ、断るお!!! いくらザメンホフくんの言うこととはいえこれは譲れないお!!!! 男には譲れない一線があるんだお!!!!」
「おやおや、おやおやおや? そんなことを言ってしまっていいんですか? 続けますよ? ビンタ続けますよ?」
「ばっ………ばっちこーいコラー!」
 その後、五分で一万発ものビンタを叩きこんでみたものの、ヴァトハールは一向に根を上げる気配はなく、尾骶骨がクタクタになったザメンホフが折れる形となった。
「まったく……その根性はどこからくるんですか……」
 獲得したペイントークンの管理はすべてザメンホフが一任するという条件で、仕方なく新たなメドゥサエの参入が認められたのであった。

 ――そんんわけで、二人目のメドゥサエちゃんである「……」ちゃん(ブルーベリー味、無口)が仲間になった!!
「うふふあははえへへふひひぐへへ!!!!」
「センスの欠片も感じられない名前ですねぇ……」