螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

小説書きでミニチュアゲーマーが何の生産性もない無益なことばかり延々とくっちゃべってるブログ

フンッ! フンッ!

「甘く苦い血ゲロ」
All You Need Is Kill桜坂洋
戦場で味方に見捨てられ、敵陣に取り残された少年は、全身全霊でファックを叫びながら挽肉と化す。しかし次の瞬間、彼は死ぬ前日に戻っていた。原因不明の時間のループに取り込まれ、地獄の戦場から逃げ出せなくなった少年は、それでもまだ見ぬ未来へ至るために孤独な闘いをはじめる。とにかく「屈強な野郎どもがファックファック罵りながらクソッたれな戦場を駆けずり回ってる感」が素晴らしい。鋼鉄と硝煙と砂塵と泥と血と汗と涙と涎と反吐と失禁と罵声と断末魔。戦場の空気がよく伝わってくる。そして主人公が死ぬ死ぬ死ぬ。百回以上は死んでいる。安楽なループは一度もなく、かならず苦痛にまみれながら死ぬ。それも、まったく変わり映えのしない一日を延々と繰り返しながら、だ。想像するだに恐ろしい状況である。「ループを抜ける」という強烈な動機と、あまりにも過酷な試練が、否応もなく主人公に感情移入させる。何度でも無制限にやり直しが効いてしまうことによる世界とのどうしようもない断絶感と距離感は、テレビゲームをよくやる人であれば容易に共感できることだろう。個々の戦闘描写も良い。ひとつひとつの動きを細かく描いているわけではないが、ぽんぽんとテンポよく進む。事前に主人公の武器が巨大で無骨なバトルアックスであることをしっかり描いているので、ただ「斬る」とだけ書かれていても、実は叩き潰すような攻撃であることがちゃんと読解できる。また、「ループしては死にループしては死に」を単調に繰り返すだけでなく、主人公が未来へ脱出するために思いつく限りのことをし、悩んだり、絶望したり、あきらめかけたり、新たな手段を試したり、予定外のフラグを立ててしまったり、同じくループする時を生きる人物と出会ったりと、読者を飽きさせないようさまざまな事件が散りばめられている。そしてそれらはすべて伏線となって、あまりにも意外で衝撃的で物悲しいラストへと収束してゆくのだ。