螺旋のモノリス~京都湯けむり殺人神父ラヴィニ―のドキ☆釘付け魅惑大胸筋~

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ケイネス先生の聖杯戦争最終局面

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 ――この荒唐無稽な命令が実現を見たのは、セイバーがすでに脱落していたことも要因として大きかったことだろう。そして聖杯の泥によってランサークラスという鋳型を外されていたディルムッドは、ほんのひとかけら残った正気のすべてを振り絞ってその命令に応えた。「令呪をもって我が従僕に命ずる。剣士の外殻を纏え」ディルムッド・オディナの霊基構造が変質し、剣士としての側面が顕現する。泥の浸食を受けていたということは、より聖杯の魔力を多く受け取れる状態であった。ガシュゥ……と噛み合わされた牙の狭間から、白い呼気が漏れる。黒き剣士がそこに現れていた。ディルムッド・オルタ。英霊が持つ別の可能性。しかしてその本質に変化はない。騎士として忠義を尽くし、誇りある戦いを全うすること。彼の胸にあるのはそれだけだった。「セイバー、ディルムッド・オディナ。推して参る」腰に帯びるは二振りの神造兵装。マナナーン・マックリール神より賜りし双剣――『大いなる激情(モラルタ)』と『秘められし瞋恚(ベガルタ)』。相対するは、ランスロットを討ち果たした黒セイバー。まずモラルタの鞘を払い、踏み込むディルムッド。黒セイバーもそれに合わせて魔力噴射。模造聖剣を振りかぶる。その動きは本物となんら遜色ない。かつては無数の打ち合いの末、どうにか辛勝をもぎとった相手だが――「シィッ!」すれ違いざまに一閃。それだけだった。泥で編まれた剣も、甲冑も、黒セイバー自身すらもただ一刀のもとに両断される。魔術無効化だの回復阻害だのという特殊能力はモラルタにはない。ただひたすらに鋭く、何もかも斬り裂く。それだけに特化した宝具であった。即座に黒い爆発を起こして浸食を進めようとする泥であったが、無数の斬撃が網のように折り重なり、その飛沫をすべて弾き飛ばした。そしてディルムッドは頭を巡らせる。半ば狂気に蝕まれたその禍々しい眼光は、黒く脈打つ魔術式――大聖杯を貫いた。裂帛とともに駆けだすディルムッドに向け、黒い津波となって殺到する聖杯の泥。ディルムッドはモラルタを鞘に納め、代わりにベガルタを引き抜いた。闇色の怒涛に向け、その刀身を叩きつける。すると――ベガルタはいともたやすく砕け散った。泥に呑み込まれるディルムッド。追加で飛んできた令呪の加護によって辛くも耐え抜くも、あっさり砕け散って柄だけとなった己の宝具を見据える。だが――そこに動揺の色はない。これはそういう代物であるから。担い手が極めつけの危難に遭遇した瞬間にのみ真価を発揮する宝具。その刀身は一種の封印機構であり、破砕をトリガーとしてベガルタの力が解放される。「『我が弟に手向ける惜別の詩(ベン・バルベン)』――!!」渾身の力で投擲されたベガルタの柄は、大聖杯の魔術式の中でも最も重要な箇所を狙い過たず打ち砕き、そのシステムに重大な矛盾と崩壊をもたらした。それは相打ちという概念の具象化。担い手を殺したものを必ず殺す因果を発生させる、報復宝具である。泥に呑まれ、死にゆく自らを自覚しながら、ディルムッドは大聖杯が自己崩壊を起こしてゆくのをただじっと見ていた。泣けばいいのか、笑えばいいのか、それすら狂気のなかで曖昧になりながら。

 かくして聖杯戦争は、終わった。